治療挙例:慢性腰痛
腰痛の弁証には、まず表裏、虚実、寒熱を見分けること。外邪を受けたものは表症と実症が多い。そして発症が急である。治療原則はきょ邪通経、寒湿と湿熱による分別をして施治する。腎精虧損による者は、裏症と虚症が多く慢性的な反復発作が多い。治療原則は補腎益気である。外邪が身体の中に滞り、腎気を損傷し実症と虚症が混在する状態になる。腎気が久虧して、衛陽不足、その上外邪を受け、虚症に実症が混在する状態になる。医者はその邪正、主次、軽重を見分けて、標本を兼顧する。気滯血お者には実症に虚証が混在することが多い。治療は活血行お、理気通経が主である。その後に調補腎気が必要であり、効果をあげる。 『証治準縄』:「有風、有湿、有寒、有熱、有閃挫、有お血、有氣滞、有痰積、皆標也。腎虚、其本也。」
(1)腎虚腰痛
【臨床症状】腰痛の性質はだるさを主としている。揉みを好み、特に下肢が
だるい、疲労時には、さらに悪化する。反復発作が特徴である。腎陽虚に
片寄る者は、下腹部がこわばる、顔色が蒼白、手足が冷える、全身がだ
るい。舌質は淡で、脉が沈細である。
陰虚に片寄る者は、いらいらする、不眠、口渇、顔色が赤い、のぼせ、手足
心が熱い。舌質は赤く、苔が少なく、脉は弦細数である。
【証候分析】力が入れなくなる−腰は腎の府であり、腎は骨髄を司る。腎の
精気が虧虚すると、腰脊の滋養が失われるためである。シクシクした痛みが
あり、按摩を好む−これらの症状は各種虚証の1つ症状として見られる。過
労により更に悪化する−疲労により気が消耗する。下腹部がこわばる−陽
虚であれば、筋を温煦することができないからである。手足が冷える−四肢
に陽が行き届かない。顔色は蒼白、舌質は淡、脉が沈細−これは皆陽虚で、
寒が勝っている証候である。いらいら、失眠、口渇、手足の掌が熱い−陰虚
であれば、即ち陰津不足、虚火上炎している。舌質は赤く、苔が少ない。脉
は弦細数−これらは皆陰虚で熱が勝っている証候である。
【治療法則】陽虚者には、温補腎陽、陰虚者には滋補腎陰。
【推拿操作】
患者は仰臥位或いは伏臥位或いは座位を、術者は坐位または立位を取る。
陽虚者に対して上記の基本手技のもとに下記の操作を加える。
@腎兪穴に膊運法を3分間行う。
A命門穴、腎兪穴、至室穴の一直線に沿って推拿媒質を塗布して横擦法を
1分間行う。
B腰陽関穴、八りょう穴を中心とする腰仙部に推拿媒質を塗布して掌摩揉法
を18回行う。
C交信穴、復溜穴、太谿穴に推拿媒質を塗布して拇指球擦法を1分間行う。
陰虚者に対して上記の基本手技のもとに下記の操作を加える。
@腎兪穴に膊運法を3分間行う。
A命門穴、腎兪穴、至室穴に拇指按揉法を3分間行う。
B交信穴、復溜穴、太谿穴に拇指按揉法を1分間行う。
C湧泉穴に掌按揉法2分間行う。
(2)風湿腰痛
【臨床症状】腰部が冷たく痛み、重い感じで動きが鈍い。徐々に症状が重くな
る。安静時にも痛みは減少しない。雨の日には症状が重くなる。苔白膩、脉沈、
遲緩。
【証候分析】腰部は冷え痛み、重い感じがして動きが鈍い−寒湿の邪気、腰部
を襲う経絡が阻害され、寒邪の性質は収引、湿邪は凝滞であるからである。安
静にしても痛みは減少しない−湿は陰邪であり、陽を得て運化が始まるので、
安静すると停滞しやすい。雨や寒い天気では、寒湿気がさらに強くなるので、
痛みが一層強くなる。苔白膩、脉沈、遲緩−皆、寒湿停滞の症候である。
【治療法則】散寒行湿、温経通絡
【推拿操作】
患者は伏臥位あるいは仰臥位を、術者は坐位または立位を取る。
上記の基本手技のもとに下記の操作を加える。
@脾兪穴、胃兪穴に推拿媒質を塗布して小指球擦法を9回行う。
A陰陵泉穴、地機穴を中心にして下腿の内側に拇指按揉法を36回行う。
B陰陵泉穴、地機穴を中心にして下腿の内側に推拿媒質を塗布して小指球擦法
を18回行う。
C臍を中心にして腹部に掌摩法を3分間行う。
(3)湿熱腰痛
【臨床症状】腰部は痛いが、緩んでいる。患部に熱感を伴う。天気の暑いとき、
あるいは雨天には痛みが増す。しかし、軽い運動後は、痛みが軽減する。尿が
黄色く、小便が近い。苔黄膩、脉濡数あるいは弦数。
【証候分析】湿熱が腰部に阻滞し、筋脉が弛緩し、経気が滯り、よって腰が痛く、
弛緩していて、熱を伴う。暑い日と雨の日には、熱と湿の気が増え、それによっ
て痛みが増加する。軽い運動をすれば、気機の流れがよくなり、湿邪の停滞も
解消され、痛みが減る。湿熱は下の膀胱へ注ぎ込まれる。よって尿が黄色くな
り、小便が近い。苔黄膩と脉濡数は湿邪の症候である。
【治療法則】清熱利湿、舒筋止痛
【推拿操作】
@屈寛伸寛
A揺寛
B按肩ばん腰
(4)お血腰痛
【臨床症状】腰部に刺すような痛みがあり、患部が固定している。昼間は軽いが、
夜は重い。症状の軽い者は臥仰が不便で、重症では体位が変えられない。患部
の按摩は拒絶する。舌質は暗紫色、あるいはお斑があり、脉は渋、一部の患者
は外傷歴がある。
【証候分析】刺すような痛みがあり、場所は固定している−お血が経脉に滞り、
気血の流れを阻止するためである。押さえるとさらに痛くなる、舌質は暗紫色、
あるいはお斑があり、脉は渋。昼間は軽く、夜が重い−すべてお血が体内に停
滞している証候である。
【治療法則】活血化お、理気止痛。
【推拿操作】
@横擦腰部
A摩揉腰部
B肘推腰部
C指按膈兪・血海
(5)生活指導
1.基礎体力を付ける必要があり、腹筋・背筋のトレーニングを取る。
2.柔か過ぎるベッドは腰によくないから、避けるべきである。
3.背もたれのない椅子は疲れやすいため、避けるべきである。
4.ハイヒールは腰椎の前彎を増強させて、腰痛を増悪するため、避けるべき
である。
5.肥満も腰椎の前彎を増強させて、腰痛を増悪するため、減肥すべきである。
6.物は体に近付けて持とう。
7.もし、胡座をするならば殿部に何か敷いて、骨盤回旋を減少するためである。
8.長時間立位は片足を踏み台に置き、なお、中腰作業は避ける。
9.体を捻転しての積み替え作業は控える。
10.セックスの回数や腰に負担をかける動作や体位をpartnerと話し合って工夫
する。とくに、腰を反らせないようにし、激しい性交は避ける。