学会発表_2000_1_がん患者における舌診の臨床意義 ―中医学臨床文献考察を主として―

がん患者における舌診の臨床意義
―中医学臨床文献考察を主として―
李 強、 鄭 賢国、施 毅、松浦義昌、清水教永

2000.10.21-22,第18回日本東方医学会,東京科学技術館

目的
舌診は、長い歴史を持っている中医学診断法である。舌を見て病気を判断することは、『黄帝内経』や『傷寒論』などの古典医書にすでに記載されている。舌診の一般的な臨床意義は、次の4点にある。①正氣の盛衰を判断する、②病氣の部位の深浅を判断する、③病邪の性質を区別する、④病状の進退を判断する。
一方、中医学によるがん治療の臨床弁証においては、みな舌象を重要な診察のバロメーターとしている。中医学による長年の臨床実践や基礎的な研究によって、多くの臨床意義を持つ舌診の文献は発表されている。本研究の目的は、これらの文献を厳選し解析を加えて、がん治療に普遍的な指導意義をもつものとしてまとめようとするものである。
方法
今回は、近年中国で発表されたがん患者における舌診の臨床報告や基礎的研究の文献をEBM(Evidence-based Medicine)の観点より検討し、文献の信頼性評価(批判的吟味)を加え、2次文献という形で文献のアウトカムをがん患者に適用することの妥当性を評価し、システマティック・レビューを行った。
結果と考察
1.舌質変化とがんの分期について
淡紅舌のがん患者は病変軽く浅い、早期、予後良好を示す。紅絳舌のがん患者は、中期>末期>早期の順に多くなる傾向が見られ、淡白舌のがん患者のほうが末期癌や悪液質が多い。また、青紫舌のがん患者はかなりの割合で末期癌を検出された。
2.舌質変化と弁証論治について
淡白舌のがん患者には清熱解毒の薬を投与すると、消化道副作用が起こしやすいが、青紫舌のがん患者には解毒の虫類薬を投与すると、お血症状が変えて酷くなるようである。
3.舌質変化と手術の予後について
術後舌質の色が浅くなる場合、手術成功・予後良好を示すが、術後舌質の色は深くなる場合は、回復が難しく・合併症を起こしやすい。
4.舌質変化と放射線治療について
淡白舌・淡紅舌の癌患者は、比較的に放射線治療の「熱毒」に忍耐できる。紅絳舌の患者は、放射線治療の「熱毒」に忍耐性がなく、副作用が現れやすいようである。その対策としては、照射は小量から始まり、清熱解毒・養陰生津の漢方薬を配合するといわれる。
5.舌質変化と抗ガン剤治療について
抗ガン剤の治療は淡白舌に奏効しにくい。その原因は①抗ガン剤の副作用に極めて敏感②消化道反応・白血球降下・血小板降下などが現れやすい③治療が続けにくい。対策としては、抗ガン剤を投与する前に、まず補氣養血・健脾益腎の漢方薬を服用させることが望ましい。
結論
癌患者における舌診の参考意義は、①癌の種類を弁別する②癌の病態を分類する、特殊意義は①癌の早期発見②癌の予後を推測する③投薬を指導する、ことにあると考えられる。しかし、癌における舌診の限局性があって、西洋医学の精密検査手段を先行的に使用すべきと思う。
Key Words: 舌診、がん、中医診断学、がんの漢方薬

学会発表_2001_1_腰椎椎間板ヘルニアに対する麻酔下推拿法について

第3回スポーツ整復療法学会演題発表, 2001,10,27,大阪電通大学図書館小ホール

腰椎椎間板ヘルニアに対する麻酔下推拿法について
李 強

Key words: 腰椎椎間板ヘルニア、中国推拿、麻酔下推拿法、文献レビュー、EBM

【目 的】
1934年にMixterとBarrは、初めて椎間板ヘルニアの臨床的意義を明確にした。その以来、腰椎椎間板ヘルニアに対して多くの保存療法または手術療法が開発されてきた。Manipulation Under Anesthesia(MUA)は、保存療法の1つ手段として使われている。中国において、古来の推拿手技と西洋医学の麻酔方法に結びつけ、麻酔下推拿(Tuina Under Anesthesia)が開発され、腰椎椎間板ヘルニアを治療する保存療法の1つとして広く使われ、よりよい治療効果が得られている。本研究は、中国に発表された麻酔下推拿法による腰椎椎間板ヘルニアの治療に関する文献をEBMの観点より検討することにした。

【方 法】
本研究は、中国の「中医薬文献数据庫」や「生物医学数据庫」などの中医学術情報データベースを利用し、過去10年間の麻酔下推拿法による腰椎椎間板ヘルニアの治療に関する文献を検索し、検索された文献をEBMの観点より検討し、文献の信頼性評価(批判的吟味)を加え、その麻酔様式、推拿手技、術後処置、臨床効果、適応症や禁忌症などについて、システマティック・レビューを行ったものである。

【結 果】
1)麻酔様式
麻酔の様式は、①全身麻酔②腰神経根ブロック③仙骨管硬膜外ブロック④ハリ⑤鎮痛剤静脈注射⑥腰椎関節突起ブロック⑦硬膜外腔点滴、という7種類が用いられた。

2)推拿手技
「三歩八法 (Eight Techniques with Three Postures)」が使われていた。

3)推拿後処置
推拿後、硬い板を敷いたベッドで1週間仰臥させる。退院した後、非麻酔の推拿を受け、腹筋・背筋の強化を中心とする腰部機能訓練を指導する。術後の2~3ヶ月間に腰にコルセットをつける必要がある。

4)臨床効果
麻酔様式で治効を検閲した。治癒平均値は43.83%、著効平均値は42.35%、有効平均値は9.94%、無効平均値は3.86%であることが分かった。各組の治癒率を見ると、硬膜外麻酔方式の方がよいとされ、さらに、硬膜外麻酔による麻酔下推拿で1回のみの治癒率は33.90%の好結果に達した報告もあった。入院日数は平均14.7日であった。

5)適応症と禁忌症
麻酔下推拿の適応症は、非中央型腰椎間板ヘルニアである。但し、非中央型であっても、神経根損害徴候(筋力減退・痛覚消失・反射障害)を伴い、腰部脊柱管狭窄症を合併し、なお、高齢者の場合には適応しない。広義の麻酔下推拿の禁忌症は、腫瘍、結核、化膿性感染症、脊椎すべり症、骨粗鬆症、心臓病、高血圧症、出血性疾患および脊柱骨質的病変となっている。

【考 察】
椎間板病変の病態変化は、①椎間板退行性変化、②椎間板膨出、③椎間板突出、④椎間板脱出、⑤椎間板破出、⑥椎間板遊離、という6種類に分類できる。麻酔下推拿は前3者に適用し、好効果が得られるが、椎間板脱出した場合には適用するものではない。麻酔下推拿の成績を左右する因子としてはヘルニア高位、ヘルニア脱出型、年齢、術前の症状、麻酔様式、推拿手技の熟練さ、術後の看護、術後の機能訓練などが考えられる。そして、麻酔の効果によって、患者の筋肉は完全に弛緩され、推拿手技を要領通りに完成することも可能となる。この点においては、普通の推拿より麻酔下推拿の方が大きなメリットをもつところである。しかし、入院の必要性、麻酔の危険性、局所麻酔薬の中毒性、筋肉が完全に弛緩の状態で推拿手技を行うことによって骨折・筋肉・椎間板・神経根に人為的な損傷を負わせる可能性などを総合して考えると、普通推拿にもメリットがあるといえる。

【結 論】
適応症と治療アプローチについて、日本の柔整医学とある程度似ている中国推拿医学は正規の中医薬大学で専門医を養成する学部を設けられ、卒業生を医師として推拿療法から観血療法までの広い範疇の中で、医療行為が行われ、推拿療法を学問の1つとして研究・応用されているのは現状である。これら医療事情を見ると、日本の柔整医学界はきっと何かヒントが得られるかと思う。