学会発表_2001_1_腰椎椎間板ヘルニアに対する麻酔下推拿法について

第3回スポーツ整復療法学会演題発表, 2001,10,27,大阪電通大学図書館小ホール

腰椎椎間板ヘルニアに対する麻酔下推拿法について
李 強

Key words: 腰椎椎間板ヘルニア、中国推拿、麻酔下推拿法、文献レビュー、EBM

【目 的】
1934年にMixterとBarrは、初めて椎間板ヘルニアの臨床的意義を明確にした。その以来、腰椎椎間板ヘルニアに対して多くの保存療法または手術療法が開発されてきた。Manipulation Under Anesthesia(MUA)は、保存療法の1つ手段として使われている。中国において、古来の推拿手技と西洋医学の麻酔方法に結びつけ、麻酔下推拿(Tuina Under Anesthesia)が開発され、腰椎椎間板ヘルニアを治療する保存療法の1つとして広く使われ、よりよい治療効果が得られている。本研究は、中国に発表された麻酔下推拿法による腰椎椎間板ヘルニアの治療に関する文献をEBMの観点より検討することにした。

【方 法】
本研究は、中国の「中医薬文献数据庫」や「生物医学数据庫」などの中医学術情報データベースを利用し、過去10年間の麻酔下推拿法による腰椎椎間板ヘルニアの治療に関する文献を検索し、検索された文献をEBMの観点より検討し、文献の信頼性評価(批判的吟味)を加え、その麻酔様式、推拿手技、術後処置、臨床効果、適応症や禁忌症などについて、システマティック・レビューを行ったものである。

【結 果】
1)麻酔様式
麻酔の様式は、①全身麻酔②腰神経根ブロック③仙骨管硬膜外ブロック④ハリ⑤鎮痛剤静脈注射⑥腰椎関節突起ブロック⑦硬膜外腔点滴、という7種類が用いられた。

2)推拿手技
「三歩八法 (Eight Techniques with Three Postures)」が使われていた。

3)推拿後処置
推拿後、硬い板を敷いたベッドで1週間仰臥させる。退院した後、非麻酔の推拿を受け、腹筋・背筋の強化を中心とする腰部機能訓練を指導する。術後の2~3ヶ月間に腰にコルセットをつける必要がある。

4)臨床効果
麻酔様式で治効を検閲した。治癒平均値は43.83%、著効平均値は42.35%、有効平均値は9.94%、無効平均値は3.86%であることが分かった。各組の治癒率を見ると、硬膜外麻酔方式の方がよいとされ、さらに、硬膜外麻酔による麻酔下推拿で1回のみの治癒率は33.90%の好結果に達した報告もあった。入院日数は平均14.7日であった。

5)適応症と禁忌症
麻酔下推拿の適応症は、非中央型腰椎間板ヘルニアである。但し、非中央型であっても、神経根損害徴候(筋力減退・痛覚消失・反射障害)を伴い、腰部脊柱管狭窄症を合併し、なお、高齢者の場合には適応しない。広義の麻酔下推拿の禁忌症は、腫瘍、結核、化膿性感染症、脊椎すべり症、骨粗鬆症、心臓病、高血圧症、出血性疾患および脊柱骨質的病変となっている。

【考 察】
椎間板病変の病態変化は、①椎間板退行性変化、②椎間板膨出、③椎間板突出、④椎間板脱出、⑤椎間板破出、⑥椎間板遊離、という6種類に分類できる。麻酔下推拿は前3者に適用し、好効果が得られるが、椎間板脱出した場合には適用するものではない。麻酔下推拿の成績を左右する因子としてはヘルニア高位、ヘルニア脱出型、年齢、術前の症状、麻酔様式、推拿手技の熟練さ、術後の看護、術後の機能訓練などが考えられる。そして、麻酔の効果によって、患者の筋肉は完全に弛緩され、推拿手技を要領通りに完成することも可能となる。この点においては、普通の推拿より麻酔下推拿の方が大きなメリットをもつところである。しかし、入院の必要性、麻酔の危険性、局所麻酔薬の中毒性、筋肉が完全に弛緩の状態で推拿手技を行うことによって骨折・筋肉・椎間板・神経根に人為的な損傷を負わせる可能性などを総合して考えると、普通推拿にもメリットがあるといえる。

【結 論】
適応症と治療アプローチについて、日本の柔整医学とある程度似ている中国推拿医学は正規の中医薬大学で専門医を養成する学部を設けられ、卒業生を医師として推拿療法から観血療法までの広い範疇の中で、医療行為が行われ、推拿療法を学問の1つとして研究・応用されているのは現状である。これら医療事情を見ると、日本の柔整医学界はきっと何かヒントが得られるかと思う。